家賃保証会社は大変便利なサービスです。家賃保証会社の利用により家主は家賃滞納リスクを考えずにすむようになりましたし、入居者は連帯保証人問題を解決し、簡単に契約できるようになりました。
しかし、家賃保証会社を利用してよいことばかりかというと必ずしもそういうわけではありません。
とりわけ言われるのは家賃保証会社の倒産リスク。過去には何社も倒産している家賃保証会社ですが、倒産のたびに不動産会社や家主に多大な損害がでています。
更に言えば家賃保証会社利用のリスクは倒産だけではありません。
順に解説いたします。
家賃保証会社の倒産からわかる利用リスク
2008年(平成20年)に大手家賃保証会社リプラスが倒産しました。
リプラスショックとも呼ばれる大手家賃保証会社の倒産は不動産業界に非常に大きな影響を及ぼしました。
家賃保証会社が倒産すると具体的にはどのようなトラブルが起きるのか?大きく分けると下記の3点が問題になります。
- 家賃の未送金案件の多発
- 新しい連帯保証人の確保の必要性
- 未納家賃回収への対応
家賃の未送金案件の多発
家賃保証会社との契約には大きく2つのプランがあります。代位弁済方式と収納代行方式です。
代位弁済方式とは家賃延滞が発生するたびに家賃保証会社に報告して立て替えてもらう方法、収納代行方式とは、毎月家賃保証会社が入居者の口座から家賃を引き落して家主に送金する方法です。
この収納代行方式の契約の場合、入居者の口座から家賃保証会社にお金が移動し、その後に家主に送金されます。そのため、引き落としがあった後に家賃保証会社が倒産すると資金移動ができなくなり、入居者は家賃を払ったのに家主には家賃が入っていないということがおきます。
この場合、入居者に再度支払ってもらうのか(入居者が泣く)、家主が未入金分を我慢するか(家主が泣く)しかありませんが、入居者は納得するわけがありません。例外的に管理会社が負担するということもありますが期待はできません。


これは収納代行方式の場合のリスクですが、代位弁済方式では別のリスクがあります(後述)。
新しい連帯保証人の確保の必要性
家賃保証会社が倒産するということは、家賃延滞があったときに払ってくれるところがなくなるということです。
賃貸借契約締結時に家賃保証会社があるから家賃滞納リスクがなくて安心、と部屋を貸していたのに途中から家賃滞納リスクが出てくるわけです。
そうなると、家主がやることは3つ。
- 新しく連帯保証人を付ける
- 別の家賃保証会社を契約する
- 家賃保証会社なし、連帯保証人なしでリスクを背負う
新しく連帯保証人を付ける
既に連帯保証人がいれば問題ないかもしれません。しかし、連帯保証人とは別に家賃保証会社を入れていたということは、家賃保証会社に期待していた部分があるはずです。
連帯保証人なしで家賃保証会社を入れていた場合には、家賃滞納リスクを減らすためには新しく連帯保証人を付けることは必須ともいえます。
しかし、家賃保証会社を利用するメリットの1つに、連帯保証人がいない人でも部屋を借りられるというのがあります。連帯保証人がいない人や誰にも内緒で部屋を借りたい人には非常に嫌がられます。
そもそも連帯保証人を頼むのが面倒ですし、頼んでもなってくれるかはわかりません。仮に連帯保証人がいないとしてもそれを理由に退去を迫るのは難しいです。
別の家賃保証会社を契約する
家賃保証会社が倒産したなら別の家賃保証会社を利用すればよいというのは選択肢としてはありです。
面倒なのは、入居者が別の家賃保証会社の審査に通るのかわからないこと、新しく契約する家賃保証会社の費用は誰が負担するのかということです。
入居者も新しい家賃保証会社は嫌がるかもしれません。
連帯保証人なし、家賃保証会社なしでリスクを背負う
では、連帯保証人も家賃保証会社もなしでリスクを家主が背負うことで対応できるか?
対応できないことはありませんが、家賃保証会社を利用するメリットの、滞納時の対応をすべて外部委託できるというものがなくなります。
家賃滞納後の対応は非常に面倒です。電話や手紙を出してすぐに支払う人ばかりではありませんし、時には交渉や裁判も必要です。管理戸数が多ければ1人で対応するには限界があります。
このすべてのリスクを家主が背負うというのは現実的ではありません。
もちろん、管理会社が入っているので対応のすべてを家主1人で負担というわけではないのでしょうが、管理会社との契約内容次第では対応範囲が限られますし、家賃督促を管理会社が行うことは非弁行為と見なされることがあり、管理会社でも対応しないことがありえます。


非弁行為というのは弁護士以外は対応してはいけない行為のこと。家賃督促を管理会社が行うことは法律違反になる可能性があります。
未納家賃回収への対応
収納代行方式のリスクは上述しましたが、代位弁済方式でもリスクはあります。
家賃を支払わなかった入居者に対しての対応は家賃保証会社が行いますが、その家賃保証会社がなくなってしまったわけなので管理会社や家主で対応しなければなりません。
請求書の発送、電話、訪問、状況確認、裁判まですべてを行うのはやはりプロに依頼した方が効率的ですし、労力が違います。
個人家主で未納家賃の回収のすべてを行える人は少数派です。多少無理にでも回収している家主もいますが、将来的に有効な手段とは考えづらいですし、裁判の経験がある管理会社も少数派でしょう。
家賃保証会社の倒産リスクの回避方法
厳密には倒産リスクの回避方法ではありませんが、有効な方法はいくつかありますのでご紹介します。
倒産しづらい家賃保証会社の選定
まず大前提は倒産しづらい家賃保証会社を選ぶ必要があります。
リプラスの倒産でもわかるように大手家賃保証会社だからといって倒産しないというわけではありません。リプラスは2008年当時、マザーズに上場していて知名度は抜群にありましたし、売上も100億円を越えていました。資本金も32億円以上あり、当時の家賃保証会社の中ではダントツでした。
それでも倒産したということは財務内容や利益率、回収ノウハウなどを確認すべきです。
日本セーフティーやフォーシーズは無借金経営をアピールしています。借り入れは普通のことですが、額があまりにも多いようでは経営状況が心配です。
たとえば、日本賃貸保証(JID)では借入額は多いですが、公式HPで借り入れの理由を明記していますし、ジェイリースやCasaなどは上場していますのでIR情報を公開しています。
また、回収をどのように行っているのかも着目ポイントです。リプラス倒産の理由の1つは家賃回収がうまくいっていなかったというものがあります。家賃保証会社は毎月多額の立て替えを行っていますので、立て替え後すぐに回収をしないと経営が厳しくなります。どのように早期回収を行っているのか、回収できない案件はどうするのかなどは確認すべきポイントです。
複数の家賃保証会社の利用
投資の格言に「卵を1つの籠に盛るな」というものがあります。
自分が持っている卵のすべてを1つの籠に盛ってしまうと、籠を落としたときにすべてが割れてしまう可能性があります。
これと同じことが不動産管理にも言えます。
自分が持っている物件すべてを1つの家賃保証会社に依頼すると、家賃保証会社が倒産したときに対応すべき案件が多くなります。
単純に3つの家賃保証会社を利用すれば、倒産があったとしても労力は3分の1で済みます。
実際、日管協が公開している第21回 賃貸住宅市場景況感調査(2019年6月公開)では全国平均で4社の家賃保証会社を利用しています。
企業である以上、倒産リスクは常にあります。もしものときのためにリスク分散するという考え方は重要です。
信託銀行口座の利用
数年前から各社が行っている信託銀行口座の利用も有効な手段です。
これは収納代行方式の際に、入居者から引き落した家賃分を信託口座という特別な銀行口座に一時保管し、このお金を家主に送金するというものです。
信託口座を利用すると、家賃保証会社ではなく銀行が管理するお金になりますので、仮に家賃保証会社が倒産しても家主には確実に送金がされます。
家賃保証会社でも自社が倒産しても家主や管理会社に迷惑をかけないように新しい試みをしているということです。
ただし、すべての家賃保証会社が信託銀行口座を利用しているわけではありません。利用できるかどうかは直接問い合わせる必要があります。


信託銀行口座、信託口座、信託スキームなど各社で呼び方は違いますが、すべて同じことを言っています。
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