2017年5月に改正民法が成立したのは今は昔、2020年4月1日の施行まであと半年です。
民法制定は1896年(明治29年)といいますから、実に124年ぶりに変わります。よく120年以上も変わらずにやれたものだと感心する一方、古いものが一新されています。
特に改正民法で連帯保証人の扱いが非常に大きく変わりますので不動産オーナーはよくよくチェックしないといけません。と、同時に家賃保証会社とのお付き合いも考え直さないといけないかもしれません。
改正民法で連帯保証人がどう変わるのか、家賃保証会社の利用はどうするかを解説いたします。
2020年改正民法5つのポイント
改正民法での変更点は多いですが、賃貸のオーナーにとって気にしなければいけないのは次の5つだけ。
- 極度額の設置
- 敷金と原状回復費用の取り扱い方
- 賃料減額請求権の発生
- 連帯保証人への財産状況報告
- 連帯保証人からの問い合わせへの回答義務
多少の勉強は必要ですが、それほど複雑ではありません。
ポイント1.連帯保証人の支払い限度:極度額とは
たぶん、オーナーにとっては今回一番の大きな変更点です。
極度額とは、連帯保証人が支払いをしなければならない金額の上限のことです。
改正民法では賃貸借契約書に極度額を設けなければなりません。極度額の記載がない契約書は無効になるので注意が必要です。
改正民法前の賃貸借契約書では、連帯保証人は賃借人の債務を連帯保証しますので、家賃を支払わなければいつまでも連帯保証人が支払いをしなければなりません。この「いつまでも」は解約されるまでなので金額に上限がありません。
家賃5万円なら1年で60万円、2年で120万円とこれが解約にされるまでずっと続きます。さらに原状回復費用やその他、入居者が支払うべき債務を入居者が支払わない場合にはすべて金額の上限なしに連帯保証人が支払う義務がありました。
しかし、改正民法では極度額が定められましたので、賃貸借契約締結時に定めた金額以上の支払い義務は連帯保証人にはありません。最初に極度額100万円で定めたら、連帯保証人が100万円を支払った時点で終わりです。連帯保証人はそれ以上を支払う義務がありません。
そうなると家主としては極度額をできるだけ高く定めたいですが、例えば「極度額:1,000万円」とある賃貸借契約書にサインしてくれる連帯保証人はどれほどいるでしょうか?
家賃5万の賃貸物件の連帯保証人だから、と改正民法前は気軽に連帯保証人になっていたかもしれませんが、1,000万円という数字を見ると嫌になるのは普通です。
ですが、極度額を低く設定すると後々困るのは家主です。
極度額には設定の下限も上限もありません。そのため、自由に設定して構わないのですが、識者からは家賃の12ヶ月分~24ヶ月分とか18ヶ月分程度が極度額として妥当という意見が出されています。
家賃は普通、遅れません。遅れてもそれほど長期化するのは比較的稀です。また、退去時にもめたり、原状回復費用がかかったりすること、最悪は家賃の長期延滞により建物明渡裁判を行ったとして裁判にだいたい6ヶ月~12ヶ月、その後の荷物搬出処分などを考慮して極度額は18ヶ月という意見が出されているようです。


ただし、建物明渡し裁判を行う場合、家賃の18ヶ月では足りません!(後述)
ポイント2.敷金の扱いと原状回復費用の扱いが変わる
まず、前提として、敷金は賃貸借契約の締結時に家主が預かりますが、入居者の退去時には全額返還すべきものです。
ただし、退去時に未納家賃がある場合や原状回復費用が発生する場合には敷金を支払いに充てることができます。
敷金を入居者に返すのは不動産業界では常識ですが、一部の地域では慣例的に「敷金は家主が預かって、原則、家主が貰うもの」という地域があります。改正民法ではこれは通用しません。
改正民法前でも敷金を返すのは当然でしたが、改正民法では明文化されました。
また、原状回復費用についても、壊れたものや傷んだものはすべて入居者負担で直すという慣例がある地域もありますが、改正民法では経年劣化や通常使用による損傷は家主負担で修理することになることが明文化されました。


感覚的には、「東京ルール」が民法になった、みたいな感じ


東京ルールについてはいつか別の記事にします
ポイント3.賃料減額請求権の発生
これも不動産業界では常識ですが、賃貸物件に付属している設備や物件そのものに不具合がある場合、入居者は家賃の減額が請求できます。
エアコンが壊れている、給湯器の動作がおかしい、ドアがキチンと閉まらない、網戸がないなど、物件にあるべきものがない場合や動きべきものが動かない場合には入居者は本来の物件の価値を享受できないわけなので、その分は支払わないという請求できます。
しかし、改正民法前では文句を言ってくる入居者に対して優先的に修理したり、家賃を下げたりということがまかり通りやすかったのは事実です。
改正民法では、物件に不具合がある場合には、家賃減額しなければならない、と変わります。
仮に家賃を満額支払っている場合には、入居者から不具合分は返せと請求が来る可能性もあります。
ポイント4.連帯保証人への財産状況報告とは
これは事業用の賃貸物件について、しかも賃借人の義務ですが、家主も知っておいて欲しいです。改正民法では賃借人から連帯保証人への財産状況報告義務があります。
これは、賃借人の財産状況、収支、借金、担保などを賃借人から連帯保証人に報告し、連帯保証人は賃借人がその物件を借りて、家賃を支払い続けるだけの資力があるかどうかを判断した上で、ポイント1で紹介した極度額に納得した上で、賃貸借契約を結ぶことになります。
イメージとしては、家賃保証会社が入居者を審査するように、連帯保証人が入居者を審査するように見えます。


財産状況の報告は事業用限定です。一般居住用には関係ありませんが、覚えておくとよいです。
ポイント5.連帯保証人からの問い合わせに対する家主の回答義務
さらに、改正民法では連帯保証人から、賃借人の家賃支払い状況を聞かれた場合には、すぐに返答しなければならないということが付け加えられています。
家賃の支払い状況は個人情報ではありませんが、民法で定められることになりますので注意が必要です。
逆に答えないことで、民法違反を盾に連帯保証人への請求の際にもめる可能性が出てきます。
家賃保証会社の利用は増える!?
前述したように、5つのポイントを見てみると、改正民法では入居者と連帯保証人に有利なように変わったように読めます。
元々消費者が有利な日本ですが、更に消費者有利が加速しそうです。民法を笠に着て文句を言ってくる入居者も増える可能性があります。
そんな改正民法ですが、家賃保証会社は各社追い風だと思っています。家賃保証会社の利用は伸びていますし、民法が変わることで家賃保証会社の利用は更に加速する可能性があります。
家賃保証会社の利用が増加する理由はいくつかありますが、大きな理由で3点です。
家賃保証会社利用が増える理由1.極度額が厳しい
極度額の設置が義務になりますが、家賃の18ヶ月分ではぜんぜん足りない可能性が高いです。
例えば、家賃5万円なら極度額は90万円、家賃10万円でも極度額は180万円です。
一方、家賃滞納が続き建物明渡訴訟を起こすことを考えると、訴訟そのものに6ヶ月以上かかり、更に強制執行手続き、荷物搬出、荷物保管、荷物処分に100万円以上かかります(荷物量に依存します)。
これとは別に裁判をするための弁護士費用がかかります。連帯保証人に請求できるとはいえ、裁判になったら家主は完全に赤字です。
ですが、家賃保証会社を利用すれば、訴訟費用、強制執行費用、荷物保管・処分費用、弁護士費用などを負担してくれるところも数多くあります。
毎月の家賃と訴訟を考えれば連帯保証人なしでも賃貸借契約は問題ないかもしれません。
家賃保証会社利用が増える理由2.敷金と原状回復費用が厳しい
経年劣化は家主負担ですが、それ以外の入居者に依存する傷や破損の原状回復は入居者に請求できます。
原状回復費用を請求する前に敷金があれば充当できますが、敷金でも足りない場合には不足分は入居者に請求します。ここですぐに入居者が支払えば問題ないですが、支払いが遅れるということはよくあります。
連帯保証人がいれば原状回復費用を請求することは可能ですが、極度額の上限に達している場合には請求できなくなる可能性があります。
今まで敷金を収益と見込んでいた家主にとっては敷金の返還と原状回復費用の負担は意外に大きくなりそうです。
一方、家賃保証会社を利用すれば、原状回復費用の保証をしてくれる会社もありますので損害を抑えることはできそうです。


本来、そもそも敷金は利益じゃないんですけどね
家賃保証会社利用が増える理由3.財産状況の報告が厳しい
事業用限定ですが、賃借人から連帯保証人に財産状況を報告する義務ができました。
財産状況というとざっくりしていますが、どこからいくら借りて、毎月いくら返済していて、収支がどうなっていて、担保がどうなっていてなどという情報を出すのは単純に面倒ですし、情報を出すことそのものを嫌がる人は出てくると思います。
民法改正で極度額の設置が出てきたこともあり、連帯保証人の意義が小さくなったこともあり、連帯保証人なしで家賃保証会社だけで契約するというパターンは増えそうです。
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